徒然CURIOSISM

学びクリエイター朝森久弥とサークル「CURIOSIST」のブログです。

【ネタバレ注意】「結城友奈は勇者である」満開の代償を労働災害と考えると

 今季アニメ「結城友奈は勇者である」を楽しく見ています。
 以下、いきなりアニメ5話・6話のネタバレをかましますので、閲覧にご注意ください。






 アニメ5話で、友奈たちは"満開"しパワーアップしたことで見事バーテックスを倒しました。
 しかし6話で、"満開"の代償として、友奈たちの体には異常が発生していたことが発覚しました。具体的には次の通りです。

友奈:味覚が無くなる
東郷:左耳が聞こえなくなる
風:左目の視力が落ちる(眼帯を付け続ける程度)
樹:声が出せなくなる
夏凛:("満開"しなかったので異常なし)

 友奈たちにバーテックスとの戦いを指示した組織"大赦"と、友奈たちとの関係は法律的になんと表現したらいいのか分かりませんが、これを強引に雇用関係だと仮定してしましょう。すると、大赦雇用主、友奈たち勇者部は労働者の関係と見なすことができます。*1
 友奈たちはバーテックスを倒すという職務遂行によって、体に大きなダメージを負ってしまいました。アニメだし7話以降でどうなるか分かりませんが、一般論として上記のようなダメージを負った場合、そう簡単には治りませんし、以後の職務にも支障をきたすでしょう。


  労働者災害補償保険法は、労働災害に遭った労働者に保険給付を行うことを定めた法律です。この法律は一部の例外(特定の公務員や小規模な農林水産業従事者)を除けば、1人でも労働者を使用している事業全てに適用されます。よって、友奈たちも労働災害が認められれば、労災保険の給付を受けることができるのです。
 労働者の労働災害が認められる条件は、
・労働者が使用者の支配下で労働を提供する過程で発生した:業務遂行性
・業務に起因して発生した:業務起因性
の2点があります。友奈たちは大赦の指示で戦闘に従事しているため業務遂行性は認められるでしょうし、上記の体への異常は戦闘業務を遂行するために生じたものと考えられる(満開しなければバーテックスを倒すことはできなかった)ので、業務起因性も十分あるでしょう。
 では、友奈たちの労働災害が認められ、しかも残念なことに体への異常に回復の見込みがないと診断されたとして、いったいどれほどの保険給付が生じるのでしょうか。それは、労働災害によって負った障碍の重さによって決まります。障碍の重さは労働者災害補償保険法施行規則に「障害等級表」というのがあり、この表に従って評価します。

友奈:味覚が無くなる
→障害等級表には明確な該当項目が無いが、少しググった所、味覚脱失は全体として神経症状に近い障害とみなされ、第12級の「局部にがん固な神経症状を残すもの」とみなされるとのこと。*2

東郷:左耳が聞こえなくなる
→障害等級第9級の「一耳の聴力を全く失つたもの」に該当すると考えられる。

風:左目の視力が落ちる(眼帯を付け続ける程度)
→眼帯を外せないくらいなので、視力の低下は相当著しいだろう。完全に失明した(矯正しても視力0.02以下)場合、障害等級第8級の「一眼が失明し、又は一眼の視力が〇・〇二以下になつたもの」に該当すると考えられる。視力0.02〜0.06なら第9級、視力0.06〜0.1なら第10級に相当する。

樹:声が出せなくなる
→障害等級第3級の「そしやく又は言語の機能を廃したもの」に該当すると考えられる。これに加えて口で物を食べられなくなると第1級の「そしやく及び言語の機能を廃したもの」にグレードが上がるが、幸いにもそこまでは至っていない。


 では、具体的にいくら給付されるのか?これは、労働者の給付基礎日額に障害等級に応じた一定の値を掛けることで算出されます。給付基礎日額は平たく言えば労働者1日当たりの平均賃金に概ね相当します。「そもそも友奈たちは給料もらってないから給付基礎日額もゼロじゃん?!」という噂もありますが、これもやはり強引に、平均日給≒給付基礎日額8000円と仮定しましょう。
 また、保険給付は1〜7級は毎年支給され続ける「年金給付」、8〜14級は「一時金給付」となります。7級以上に該当するともう就業することも困難でしょうし、生涯にわたって面倒見ようということなのでしょうね。
 各人の給付額を計算すると、次のようになります。

友奈:12級は「給付基礎日額×156日分」の一時金が支給される。8000円×156日分=124万8000円

東郷:9級は「給付基礎日額×391日分」の一時金が支給される。8000円×391日分=312万8000円

風:8級は「給付基礎日額×503日分」の一時金が支給される。8000円×503日分=402万4000円。9級なら312万8000円(391日分)、10級なら241万6000円(302日分)。

樹:3級は「給付基礎日額×245日分」の年金が支給される。8000円×245日分=196万円が毎年支給される。


 友奈は作中で「お菓子の味が分からないなんて、人生の半分は損だ〜」と言ってます。私も同感です。彼女の障害等級が特段低く、その補償が124万8000円の一時金しか無いことに驚きを隠せませんでした。
 また、東郷さんは今回の業務前からすでに脚に障碍を負っています。第一話から車椅子に乗って登場しており、両脚を自力で動かせる気配がありません。これは障害等級第1級「両下肢の用を全廃したもの」に相当し、毎年250万4000円(給付基礎日額313日分)が給付されるようになります。東郷さんが下肢付随となった事故の原因は明らかにされていませんが、仮に交通事故ならば労働者災害保険補償法の基準に準用して保険給付がなされます。
 あと、風と樹は家族が他にいないふたり暮らしをしているようですが、労災保険給付を適切に受ければ、樹の年金で最低限の暮らしは保てるようになるかもしれませんね。もっとも樹にとって声が出せない精神的ショックがそれで補えるものとは思わないですが……。


 以上、友奈たちの満開の代償を労働災害と考えた場合のシミュレーションでした。なお、このエントリーの情報は、社会保険労務士を目指す知人に触発されて労働災害について調べてみた素人・朝森久弥*3によるものであり、読者のみなさんがこれらの情報を利用したことによる不利益に、私は一切責任を取りませんので、ご了承ください。法律相談は資格を有する専門家に依頼することをお勧めします。

*1:そもそも労働基準法第56条によれば15歳未満の児童は労働者として使用してはならないのですが、この点は敢えてスルーします

*2:参考:後遺障害と等級(by「行政書士 大場事務所」)

*3:理学部卒業、法学検定3級所有