徒然CURIOSISM

同人サークル「CURIOSIST」主宰・朝森久弥の雑文の集合体です。

マイベストブック2020

毎年年始恒例となっている朝森久弥の「マイベストブック」。この記事では、2020年に読んだ本のうち、私の人生に特に影響を及ぼした本を紹介します。
マンガ部門とマンガ以外部門に分けて発表します。

 

マンガ部門

 2.5次元の誘惑(リリサ)

2.5次元の誘惑 1 (ジャンプコミックス)

2.5次元の誘惑 1 (ジャンプコミックス)

  • 作者:橋本 悠
  • 発売日: 2019/10/04
  • メディア: コミック
 

 好きなものを好きで居続ける若人の生き様!

率直に言うと、このマンガの連載がジャンプ+で始まった当初は「まーた量産型エロコメが始まったか」と手を出さずじまいでした。絵柄はドストライクなんですが、この手のマンガは周囲に隠れて読むもので、バレたらなんか気恥ずかしい…みたいな思春期男子ムーブを発動していたのです。それでも、pixivコミックで無料公開されていたのを軽い気持ちで読み進めてみたら、まんまとハマってしまいました。まず、幼なじみヒロイン・美花莉がめっちゃ健気!そして主人公・奥村のオタク強度高すぎ!このマンガにおけるお色気要素はあくまでスパイスで、コスプレに打ち込むオタクたちの熱血青春譚は、一周回って少年ジャンプの王道展開そのものです。

…ここまでの経緯は多くの『2.5次元の誘惑』ファンがたどってきた道筋だと思いますが、私個別の推しを挙げると、やはりコスプレーヤー753(なごみ)ですね。753はコスプレが好きすぎてコスプレを仕事にした女子で、好きを仕事にした人間ならではの苦しみを味わい思い悩みます。彼女がヒロイン・リリサのリリエルに出会って自分を取り戻す流れは激熱なんですけども、その節々に現れる753のプロ根性、そしてコスプレに愛を注ぐさまが、私たちが大切にしたい何かを呼び起こしてくれるのです。好きなものを好きで居続けるのは簡単なことではないかもしれないけど、一生を賭して挑む価値があるものだということを。

このマンガの題材は「コスプレ」であり、著者がこの題材を扱えるだけのオタク(ここでは、日本オタク文化の愛好者という意味)に対する造詣の深さを有していることは、少し読めばすぐわかることです。私たちオタク(とくに2021年現在アラサーあたりの)が経験してきたであろうこと、感情をことごとく拾い上げ、それらへのメッセージを説教臭くなく発信する構成力の高さには脱帽せざるを得ません。私は2020年に『教科書 日本オタク文化』という同人誌を書きましたが、その私が断言します。『2.5次元の誘惑』もまた、日本オタク文化の教科書です!

 

マンガ以外部門

教育格差

教育格差 (ちくま新書)

教育格差 (ちくま新書)

  • 作者:松岡 亮二
  • 発売日: 2019/07/05
  • メディア: 新書
 

 返り血を浴びる大人の覚悟!

2019年に引き続き、ちくま新書からの受賞となりました。筑摩書房はこういう骨太な本を(価格の高い単行本ではなく)新書として出してくるから本当にありがたいです。この本の本編は約330ページありますが、「註記」と「引用文献」がそれぞれ20ページ以上あります。体裁がほぼ学術論文なんですね。ともすれば週刊誌が飛びつくような煽りやすいテーマを扱いながら、あくまで研究成果の公表に徹する著者の研究者としての誠実さが現れています。

幾重にも積み重ねられた調査結果を根拠に著者が訴えるのは、「戦後日本は、“生まれ”による教育機会の格差が存在し続けている緩やかな“身分社会”である」という事実です。親の学歴や生まれ育った地域によって、学力・学歴獲得の有利不利が存在する―朝森教育データバンクを読んでいるような人なら知識として知っていると思いますが、世間的には、さらに教員免許を取得する教師の間でも自明ではない現状に、著者は警鐘を鳴らしています。白眉なのは、たとえ(入試による選抜がない)公立小・中学校どうしであっても、その教育環境に強烈な格差があることを明らかにしたことです。進学校クラスタは、しばしば「公立vs私立」という構図で議論を展開しがちですが、そもそも公立の中でも一括りにはできないことを自覚しなければならないと耳が痛い思いでした。

著者は、日本に横たわる教育格差をどうにかしたいという想いで教育社会学を究めているけれども、それを(格差社会の勝ち組が集う)大学で説くことは、教育格差を強化することでもあるのではないかと煩悶しています。ですが彼は、返り血を浴びてでもその研究・教育を続ける道を選びました。同様の葛藤は、啓蒙をライフワークにしている私も持っていて、一足飛びに社会を変える処方箋がないことに打ちひしがれる日々ではありますが、「それでもやり続けるしかないよね」という著者の情熱に勇気づけられました。この本は、格差の存在に絶望するための本ではなくて、社会の、人間の可能性を諦めないための本なのです。

 

ノミネート作品

マイベストブック2020のノミネート作品は以下の通りでした。
(並び順が順位を表すわけではありません)

 

 【マンガ部門】

・二月の勝者(小学館

2.5次元の誘惑(集英社

・トナリはなにを食う人ぞ(白泉社

恋愛ラボ芳文社

・【推しの子】(集英社

 

【マンガ以外部門】

・平成オタク30年史(新紀元社

・ねじ子が精神疾患に出会ったときに考えていることをまとめてみた(照林社

・男が痴漢になる理由(イースト・プレス

・100分 de 名著 ブルデューディスタンクシオン』(NHK出版)

・教育格差(筑摩書房

 

『トナリはなにを食う人ぞ』は自炊好きカップル同棲ラブコメで、ヒロイン・稲葉さんが美味しそうに食べている顔が本当にかわいいです。『恋愛ラボ』は完結おめでとうございます!エノが報われて本当に良かった……!

『平成オタク30年史』はその名の通りの本で、拙著『教科書 日本オタク文化』の執筆時に大いに参考にさせていただきました。『ディスタンクシオン』は2020年末にTwitterの教育クラスタが話題にしているのを見つけてまさに自分のための本だと思いました。これが500円台で出版できてしまうNHKは本当にすごいですね…『教育格差』と併せて読むことをおすすめします。

 

 

今年も素晴らしい本に出会えますように。